
すばる望遠鏡のアーカイブが暴いた!土星以遠に眠る「裸の彗星核」の偶然の発見
太陽系の誕生から約46億年間、始原的な氷と塵(ダスト)をそのまま保存してきた「タイムカプセル」である彗星の素顔に迫る画期的な研究成果が発表されました。
国立天文台(NAOJ)、産業医科大学、京都産業大学などの共同研究チームは、ハワイ・マウナケア山頂に設置されたすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」が過去に取得した公開アーカイブ画像を網羅的に探索し、土星軌道よりも遠い太陽から10天文単位(約15億キロメートル)以上の遠方で休眠状態にあった「ノイミン第1彗星(28P/Neujmin)」の核を偶然発見することに成功しました。
この成果は、日本天文学会欧文研究報告(PASJ)に2026年8月25日付で正式に掲載されました。
彗星は通常、太陽に近づくと氷が昇華して周囲に巨大なガスと塵の雲である「コマ」を形成するため、その中心に隠された固体本体である「彗星核」を直接観察することは極めて困難です。
核の素顔を直接捉えるためには、氷が完全に凍りついてコマが発生しない太陽から遠く離れた極低温領域で観測する必要がありますが、そのような遠方の彗星核は極めて暗く、口径8.2メートルの巨大主鏡を持つすばる望遠鏡のような最高峰の集光力が不可欠でした。
さらに今回、満月およそ9個分という圧倒的な広視野を誇るHSCが別の科学観測目的で撮影した画像の中に、太陽・地球・彗星がほぼ一直線に並ぶ「衝(しょう)」の幾何学的配置となったノイミン第1彗星が奇跡的に写り込んでいました。
この極めて稀な巡り合わせによって、地上望遠鏡による彗星核の精密な反射特性の直接測定が世界で初めて実現したのです。
衝効果が明かした小惑星との決定的な違いと太陽系始原天体の進化史
天文学において、太陽光を背にして天体を正面から見た際に、表面の影が隠れ、粒子間で光が多重散乱されることで急激に明るさが増す現象を「衝効果(オポジション・サージ)」と呼びます。
衝効果による増光の度合いや角度依存性を詳細に解析することで、天体表面を覆う砂粒(レゴリス)のサイズや隙間の割合、粒子の密集度合いといったミクロな物理構造を直接推定することができます。
研究チームがノイミン第1彗星の核の反射スペクトルを解析したところ、表面の色合いは含水鉱物や有機物に富む暗く赤みがかった炭素質小惑星(C型小惑星など)と非常によく似ていました。
しかし、衝付近での増光挙動を調べると予想を大きく覆す結果が得られました。
暗い小惑星では衝の際にもわずかな増光しか見られないのが一般的ですが、ノイミン第1彗星の核は、高反射率を持つ明るい小惑星(S型小惑星など)に匹敵する極めて急激で強力な増光(強い衝効果)を示したのです。
この劇的な違いは、彗星核の表面微細構造が小惑星とは根本的に異なっていることを明確に示しています。
彗星が軌道上で太陽に近づくたびに表面の氷が昇華して抜け落ちた結果、微細な塵の粒子が非常にスカスカで多孔質な蜂の巣状の構造を形成し、光を特異に散乱させていると考えられます。
これまで曖昧だった彗星と小惑星の境界線を物理構造の観点から明確に描き分けるこの発見は、太陽系初期に物質がどのように集積し進化したのかを解く重要な鍵となります。