NASA JPL「ローバー・オペレーションズ・センター(ROC)」始動
AIと30年以上の探査運用経験が切り拓く、月・火星探査の新時代
2024年12月10日、米国カリフォルニア州南部にあるNASAのジェット推進研究所(JPL)は、新たに**ローバー・オペレーションズ・センター(Rover Operations Center:ROC)**を正式に開所した。ROCは、月や火星といった惑星表面ミッションの現在と未来を支える「中核拠点」として位置付けられており、JPLが長年培ってきた運用ノウハウと最新のAI技術を統合し、政府・民間・学術界との連携を強化することを目的としている。
ROC設立の背景と役割
ROCは、JPLが30年以上にわたって積み重ねてきた火星探査ローバーの開発・運用経験を基盤としている。これまでJPLは、他の惑星で初めて走行したローバー「ソジャーナ」から、現在も稼働中の「キュリオシティ」や「パーサヴィアランス」まで、数々の探査車を成功させてきた。さらに、人類史上初めて火星で飛行した航空機「インジェニュイティ・ヘリコプター」もJPLが手がけた成果の一つだ。
ROCは、こうした探査車や航空システムの運用で培われた自律性、ロボット技術、運用のベストプラクティスを一元化し、将来の月・火星探査に向けて効率的に活用するための拠点として整備された。JPLディレクターのデイブ・ギャラガー氏は、ROCを「力を何倍にも増幅する存在」と表現し、長年の専門知識と新しいツールを結び付けることで、次世代の探査ミッションを加速させると語っている。
産業界と学術界をつなぐハブ
ROCの大きな特徴は、産業界や大学との戦略的パートナーシップを前提としている点だ。NASAの研究開発拠点として、JPLは国家的な探査ミッションを支えるだけでなく、急速に成長する商業宇宙分野に対しても技術と知見を提供していく役割を担っている。
開所式には、商業宇宙産業やAI分野のリーダーが参加し、JPLのミッションチームとの意見交換や、運用施設の見学が行われた。参加者は、ローバー運転者が次の走行経路を計画するエリアや、実際の火星地形を再現した「マーズ・ヤード」、そして過酷な宇宙環境を再現する「25フィート・スペース・シミュレーター」を視察した。
ジェネレーティブAIの本格活用
今回の発表で特に注目されたのが、ジェネレーティブAIの初の実運用活用だ。ROCでは、パーサヴィアランス・ローバーの運用チームが、高解像度の軌道画像や地形データをAIに解析させ、安全な走行ルート案を自動生成する取り組みを披露した。これにより、危険な地形を避けつつ、より効率的に科学調査を進めることが可能になる。
ROCプログラムマネージャーのジェニファー・トロスパー氏は、3週間の短期集中チャレンジでAIを複数の運用ケースに適用した結果、多くの改善余地が見えてきたと説明している。今後は外部パートナーとの協力を通じて、AIを探査運用の中核に組み込み、より高度な自律性を実現していく計画だ。
自律性の進化とその意義
JPLは1990年代から探査車の自律性向上に取り組んできた。最近では、パーサヴィアランスが夜間の保温などエネルギー消費の大きい作業を自ら判断・実行できるようになり、節約した電力を科学観測や長距離走行に再配分できるようになっている。こうした進化は、通信遅延が避けられない月・火星探査において極めて重要だ。
今後の10年間は、有人・無人を問わず月探査が活発化し、ローバーやドローンが宇宙飛行士を支援し、インフラ構築を補助する時代になると予想されている。ROCは、そうした将来像を見据えた技術開発と実証の土台になる。
将来への広がり
ROCでは、ミッション設計支援、自律システムの統合、試験、運用まで、パートナー向けに段階的な参加枠が用意されている。対象は科学探査ミッションにとどまらず、将来の有人探査に向けたロボット支援、月面での人とロボットの協調作業、さらには宇宙遊泳の支援技術まで幅広い。
JPLが運営するROCは、NASAと米国の宇宙探査を支えるだけでなく、商業宇宙分野に新たな可能性を開く拠点として、本格的に動き出した。AIと半世紀近い探査経験が結び付くことで、月や火星での活動は、これまで以上に効率的で安全なものになっていくだろう。
