巨大ブラックホール「いて座A*」からわずか0.55光年!極限環境で生き延びる水分子とダスト

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巨大ブラックホール「いて座A*」からわずか0.55光年!極限環境で生き延びる水分子とダスト

天の川銀河の中心部に潜む巨大ブラックホールの至近距離において、宇宙物理学の常識を覆す驚くべき分子の生存が確認されました。
ドイツのケルン大学を中心とする国際天文学チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置(MIRI)を用いた観測により、天の川銀河中心の超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」からわずか0.55光年(約4万2000天文単位)しか離れていない進化末期の巨星「IRS 3」の星周エンベロープ(外層ガス殻)から、水分子(H2O)と酸素に富むケイ酸塩ダスト(塵)の明確なスペクトルシグネチャーを検出したと科学誌『Astronomy & Astrophysics』に発表しました。

ブラックホールの周囲は、強烈な高エネルギー紫外線やX線放射、さらには凄まじい重力潮汐力が渦巻く、銀河系内で最も過酷で暴力的な環境のひとつです。
従来の理論モデルでは、これほど強力な放射線環境下では、繊細な化学結合を持つ水分子や微小なダスト粒子は急速に光解離され、破壊されて生き残ることは不可能であると考えられてきました。
しかし、JWSTが取得した波長4.9マイクロメートルから27.9マイクロメートルにわたる連続中間赤外線スペクトルは、波長6〜8マイクロメートル帯に刻まれた明瞭な水分子の吸収線と、9.7マイクロメートルおよび18.5マイクロメートルに位置するケイ酸塩鉱物の存在をはっきりと描き出しました。

この発見は、銀河の心臓部のような極限環境であっても、星が放出した高密度のガス層が放射線を遮蔽するシールドとして機能し、生命の基本構成要素となる物質を安全に保護・維持できることを決定的に証明しました。
宇宙の過酷な境界領域における物質進化の理解を劇的に塗り替える画期的な成果です。

18日で地球1個分の質量を放出!巨星「IRS 3」が挑む銀河中心の化学進化

水とダストの源となっているIRS 3は、質量が太陽の約6倍、年齢約7200万年と推定される漸近巨星分枝(AGB)星と呼ばれる進化の最終段階にある赤色巨星です。
この星は現在、天文学で「スーパーウィンド(超恒星風)」と呼ばれる極めて激しい質量放出フェーズの只中にあります。
研究チームの物理モデル計算によると、IRS 3はなんと「わずか18日ごとに地球1個分に相当する質量」を猛烈な勢いで宇宙空間へと吹き飛ばし続けています。

この圧倒的な質量喪失によって、星の周囲には半径約1万天文単位(太陽から地球までの距離の1万倍)にも及ぶ超巨大な多重構造のガスとダストの殻が形成されています。
外側に広がる分厚いケイ酸塩ダストのカーテンが、ブラックホール降着円盤からの致死的な放射線を効果的に遮断することで、エンベロープ内部に冷たく濃密な避難場所を作り出し、水分子が安定して存在し続けることを可能にしているのです。

これまで、炭素過剰な星であると推測されていたIRS 3が、実は酸素に富む豊かな星であり、銀河中心領域において新たに重元素や水を周囲の星間空間へ供給し続けている「化学濃縮の工場」であることが明らかになりました。
放出されたダストや水はやがて星間物質へと混ざり合い、未来の世代の恒星や惑星系を形成する貴重な素材となります。
死にゆく星が放つ物質の種が、ブラックホールの足元でさえも新たな生命の可能性を紡ぎ出しているという事実は、宇宙の循環メカニズムの力強さを鮮やかに物語っています。

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