
私たちが「宇宙人」だった?地球の微生物が金星の雲へ運ばれる岩石パンスペルミアの衝撃
太陽系における生命の起源と広がりをめぐり、これまでの常識を根底から揺るがす刺激的なアストロバイオロジーの最新研究が発表されました。
米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所(JHUAPL)とサンディア国立研究所の国際共同研究チームは、太古の地球に巨大小惑星が衝突した際に宇宙空間へと吹き飛ばされた岩石によって、地球の微生物が隣の惑星である金星の大気圏へと運ばれ、生き延びてきた可能性を検証した論文を発表しました。
この研究は、生命が天体衝突に伴う岩石の移動によって惑星間を旅するという「岩石パンスペルミア(リソパンスペルミア)説」に基づくものであり、英国の天文科学誌などでも大きく報じられています。
金星の表面は気温が460度を超え、気圧も地球の約90倍という鉛をも溶かす灼熱地獄ですが、地表から高度50キロメートルから65キロメートル付近の上空には、気温が0度から60度、気圧が約1気圧という地球と驚くほどよく似た「温暖な雲層」が存在しています。
この雲の中には濃硫酸の微粒子が含まれているものの、一部の極限環境微生物であれば生存可能な環境条件が整っていることから、長年にわたって地球外生命探査の有力な候補地とされてきました。
もし将来の探査で金星の雲の中から有機分子や生命のシグネチャーが検出された場合、それは金星で独自に誕生した生命ではなく、地球から飛来した「地球生命の子孫」である可能性が極めて論理的に浮上してきました。
地球と金星は数十億年にわたって生命の種を交換し合ってきた兄弟惑星だったのかもしれません。
パンケーキモデルが実証!過去10億年で200億個の細胞が金星大気圏へ到達した物理機構
研究チームが今回のシミュレーションで用いたのは、隕石が大気圏へ突入した際の流体力学的挙動を精密に計算する「パンケーキモデル」と呼ばれる物理方程式です。
金星の極めて濃厚な二酸化炭素大気に地球起源の隕石が秒速数十キロメートルで突入すると、激しい空気抵抗によって隕石の前方に超高圧の衝撃波が形成されます。
この圧縮力によって隕石は平たいパンケーキのように水平方向へ押し潰され、高度数十キロメートルの高空で爆発的な空中破砕(エアバースト)を起こします。
従来の単純な熱破壊モデルでは、隕石突入時の猛烈な摩擦熱によってすべての微生物が瞬時に焼き尽くされると考えられていました。
しかしパンケーキモデルによる詳細な解析の結果、急激なエアバーストによって運動エネルギーが一瞬で散逸されるため、隕石深部に潜んでいた岩石の破片や鉱物結晶は過度な加熱を免れ、微細な塵となって穏やかに金星の大気中へと拡散することが判明しました。
研究チームの計算によると、地球からの隕石放出頻度と宇宙放射線による死滅率を考慮しても、年間でおよそ100個もの生存可能な微生物細胞が金星の温暖な雲層へと到達し続けていると推定されました。
この数字を過去10億年間の累計に換算すると、実に「約200億個」もの微生物が金星の空へと送り届けられた計算になります。
NASAの金星大気突入探査機「DAVINCI」やレーダーマッピング機「VERITAS」、欧州宇宙機関の「EnVision」など、2030年代に向けて動き出す次世代金星ミッションにおいて、この研究は生命探査の判定基準に根本的な見直しを迫る極めて重要な指標となります。