NASA探査車パーサヴィアランスが火星の塵旋風で「火花」と「衝撃音」を確認!
NASA探査車パーサヴィアランスが捉えた前例のない現象
NASAの火星探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」が、火星の塵旋風(ダストデビル)の内部で発生する電気放電(火花)とミニ・ソニックブームの音を記録することに成功した。この現象は長年理論的に予測されてきたものだったが、今回初めて音響と電磁データによって実証された。
この研究成果は、2024年11月26日付で学術誌 Nature に掲載され、火星の大気化学、気候、そして生命が存在し得る環境条件の理解を大きく前進させるものとして注目されている。将来のロボット探査や有人探査の設計にも重要な知見を与える可能性がある。

火星で頻繁に発生する「ダストデビル」とは
ダストデビルは、火星では非常によく見られる現象だ。地表が太陽光で温められると、その熱で暖かい空気が上昇し、上空の冷たい空気との間に対流が生じる。地表付近では、上昇する空気を補うために周囲から空気が流れ込み、その過程で回転が始まる。
回転する空気柱に吸い込まれた砂や塵は加速され、フィギュアスケート選手が腕を縮めることで回転が速くなるのと同じ原理で、渦は次第に強まる。これが、塵を巻き上げながら移動するダストデビルの正体である。

画像 NASA
55回の電気的イベントを記録
パーサヴィアランスに搭載された観測装置「SuperCam(スーパーキャム)」は、これまでに55件の異なる電気的イベントを検出している。最初の記録は2021年、ミッション開始から215火星日(ソル)目にさかのぼる。
その中でも16件はダストデビルが探査車の真上を通過した際に発生したものであり、残る35件は地域的な砂嵐に伴う対流前線の通過時に観測された。
正体は「摩擦帯電(トライボエレクトリック効果)」
この現象の鍵となるのが「摩擦帯電」と呼ばれる物理現象だ。細かい塵の粒子同士が渦の中でぶつかり合い、こすれ合うことで電荷が蓄積され、やがて放電が起きる。
これは、靴下でカーペットの上を歩いたあとに金属製のドアノブに触れて火花が散るのと同じ仕組みである。研究によると、火星のダストデビルによる放電は、地球上で人間が感じる静電気とほぼ同じ程度のエネルギーだという。
フランスの惑星科学者バティスト・シード氏は次のように説明している。
地球では砂や雪の摩擦帯電はよく知られているが、実際に放電に至ることは少ない。一方、火星では大気が非常に薄いため、はるかに小さな電荷で火花が生じやすい。
「パチッ」という音がはっきり聞こえる
SuperCamには本来、レーザーで岩石を照射した際の音を分析するためのマイクが搭載されている。しかし、このマイクは風の音や、火星で初めて記録されたダストデビルの音も捉えてきた。
研究チームがミッション全体のデータを精査したところ、電気放電に特徴的な**「パチッ」「パチパチ」という音**が複数含まれていることがすぐに判明した。
共同著者であるジョンズ・ホプキンズ応用物理研究所のラルフ・ローレンツ氏は、次のように語っている。
明確に火花の「スナップ音」が聞こえる記録がある。ソル215のデータでは、放電音だけでなく、ダストデビルの壁が探査車を覆う音も聞こえる。さらにソル1296では、塵の粒子がマイクに衝突する音まで含まれている。
季節よりも「局所的な乱流」が重要
研究者たちは、火星で全球的な砂嵐が増える季節に放電が増えると思っていたが、実際にはそうではなかった。放電の発生頻度は、大気中の塵の量そのものよりも、局所的で激しい乱流によって砂や塵が巻き上げられるかどうかに左右されていることが判明した。
火星の化学環境と生命可能性への影響
この発見は、火星に対する理解を大きく変えるものだ。電気放電が発生するということは、火星の大気中で化学反応が活性化され、塩素酸塩や過塩素酸塩といった強力な酸化物が生成される可能性がある。
これらの物質は、有機分子を効率よく分解・破壊する性質を持ち、生命の構成要素が地表で長く残ることを困難にする。また、謎とされてきた火星のメタンが急速に消失する現象についても、この電気的な化学反応が関与している可能性が示された。
火星の気候と探査ミッションへの影響
塵が常に存在する火星では、摩擦による帯電が塵の移動そのものにも影響している可能性がある。塵の移動は火星の気候を左右する重要な要素だが、いまだに十分には解明されていない。
さらに、電気放電の存在が確認されたことで、探査機の電子機器に対するリスク評価にも新たな視点が加わる。ただし、これまで数十年にわたる火星探査で重大な静電気トラブルが報告されていないことは、NASAの慎重な設計と接地対策が有効であることを示している。
今後の有人火星探査に向けても、安全対策の検討に役立つ成果となるだろう。
パーサヴィアランスについて
パーサヴィアランスは、南カリフォルニアのジェット推進研究所(JPL)が中心となり、NASAの火星探査計画の一環として運用されている。運用管理はカリフォルニア工科大学(Caltech)が担当している。
最新情報、NASA公式サイトを参照
https://science.nasa.gov/mission/mars-2020-perseverance
