4重の渦巻き塵殻を持つ謎の恒星系「アペプ」
NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、これまで誰も見たことのなかった、4つの蛇行する渦巻状の塵の殻を持つ恒星系の中間赤外線画像を公開した。この前例のない構造は、エジプト神話の混沌の神にちなんで「アペプ(Apep)」と名付けられた恒星系で発見された。
これまで見えなかった「外側の渦巻き」
アペプは、2つの老齢のウォルフ・ライエ星から成る恒星系として知られていた。ウォルフ・ライエ星は膨大な量の物質を恒星風として放出する非常に珍しい星である。
これまで地上望遠鏡や過去の宇宙望遠鏡による観測では、最も内側の塵の殻1つしか検出されていなかった。理論上は外側にも殻が存在すると予測されていたものの、塵が暗く、冷えたため発見できなかった。
しかしウェッブの**中間赤外線観測装置(MIRI)**は、熱を保った微細な炭素塵を極めて鮮明に捉える能力を持つ。その結果、
- 完全に同じパターンを描く
- 過去700年間にわたって形成された
- 合計4つの渦巻状の塵殻
が初めて直接確認された。4番目の殻は画像の端でほぼ透明な状態で見えている。
190年に1度の接近が塵を生む
ウェッブの観測と、チリにある**ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)**による8年分のデータを組み合わせた解析により、研究者たちは2つのウォルフ・ライエ星の軌道周期を特定した。
- 恒星同士が接近する周期:約190年
- 1回の接近期の継続時間:約25年間
この長い接近期間中、2つの恒星の強烈な恒星風が正面衝突し、大量の炭素に富んだ塵を作り出す。多くの類似系では、塵は数カ月しか生成されないため、この長期間は極端に珍しい。
マッコーリー大学のライアン・ホワイト氏は、この系について次のように述べている。
「塵を作るウォルフ・ライエ連星の中で、これほど長い周期を持つ系は他に存在しません」

第3の恒星の存在が明確に
ウェッブの画像から、さらに重要な事実が明らかになった。それはこの系に、
- 3つ目の恒星(巨大な超巨星)
が重力的に結びついて存在している点である。
この超巨星は、より外側の軌道を周回しながら、2つのウォルフ・ライエ星が作り出した塵の殻を刃物のように切り裂く。
画像中央の明るい点(3つの星が重なって見える位置)から、
- 時計の10時方向から2時方向
に広がるV字状の空洞
が、すべての殻で同じ位置に現れている。これは第三の恒星が塵雲に穴を開けながら進んでいる証拠だ。
ホワイト氏はこの結果を次のように表現している。
「ウェッブは、この第3の星が確実に重力で結びついていることを示す決定的証拠を与えてくれました」
なぜウェッブで見えたのか
ウェッブがこれほどの詳細を捉えられた理由は、塵の性質にもある。
- 塵の主成分:非晶質炭素
- 炭素塵は恒星から離れても比較的高温を保つ
- ただし発する光は非常に弱い
この微弱な赤外線を検出できるのは、宇宙空間にあるウェッブのMIRIだけだ。
塵は毎秒約2,000〜3,000kmという驚異的な速度で宇宙空間に放出されており、密度も高い。
将来に待つ壮絶な運命
現在、2つのウォルフ・ライエ星はそれぞれ、
- 太陽の約10〜20倍の質量
を持つと考えられている。一方、三つ目の超巨星は太陽の40〜50倍もの質量がある。
将来的にこの系では、
- ウォルフ・ライエ星が超新星爆発を起こす
- 一方または両方がガンマ線バーストを放つ可能性
- ブラックホール化
といった、宇宙でも最も激しい現象が起こる可能性がある。
きわめて珍しい天体システム
ウォルフ・ライエ星自体が極めて希少で、
- 天の川銀河全体で誕生数:約1,000個
- 観測されたウォルフ・ライエ連星は数百例
その中で、
- ウォルフ・ライエ星が2つ存在する系
- なおかつ3重連星構造
を持つのは、現在のところアペプだけである。
ウェッブが切り開いた新たな理解
筆頭著者であるカリフォルニア工科大学のイヌオ・ハン氏は、今回の発見を次のように語っている。
「暗い部屋で電気をつけたかのように、すべてが一気に見えました」
今回の観測で多くの謎は解明されたが、地球からの正確な距離はまだ不明なままであり、今後の観測が必要とされている。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、アペプのような特異な天体を通して、恒星の死と物質循環の理解を大きく前進させ続けている。
出典
NASA / ESA / CSA / STScI
科学論文: Han et al., White et al.(Astrophysical Journal)