【恒星間天体】ボリソフ彗星:太陽系外からやってきた「2番目の訪問者」が教えてくれたこと

「広告」

目次

【恒星間天体】ボリソフ彗星:太陽系外からやってきた「2番目の訪問者」が教えてくれたこと

夜空を見上げるとき、私たちは数え切れないほどの星々を目にします。しかし、その「星々の世界」そのものが、物理的に私たちの太陽系を訪れることがあるとしたらどうでしょう?

2019年、天文学界に衝撃が走りました。 2017年の「オウムアムア」に続き、観測史上2例目となる恒星間天体(太陽系外から飛来した天体)が発見されたのです。

その名は**「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」**。

今回は、この遠い宇宙からの旅人が、私たちにどのようなメッセージを運んできたのか、その正体と驚くべき事実に迫ります。


1. アマチュア天文学者が成し遂げた歴史的発見

2019年8月30日、クリミア半島の天体観測所。 この日、歴史を動かしたのは巨大な天文台の最新鋭望遠鏡ではなく、一人のアマチュア天文学者の情熱でした。

発見者の名は、ゲンナジー・ボリソフ氏。 驚くべきことに、彼は自作の0.65メートル望遠鏡を使用してこの天体を発見しました。明け方の空、太陽に近い位置を移動する「奇妙な動きをする天体」を彼が見逃さなかったことで、人類は再び太陽系外からのサンプルを目撃するチャンスを得たのです。

その後、世界中のプロの天文台が追跡調査を行い、この天体の軌道離心率が「3」を超えていることが判明しました。これは、太陽の重力に縛られていないことを意味する決定的な証拠です。

こうして、この天体は「2I(2番目の恒星間天体)/ Borisov」と名付けられました。


2. 「オウムアムア」とは何が違ったのか?

最初の恒星間天体である「オウムアムア」を覚えているでしょうか? オウムアムアは、細長い葉巻型のような奇妙な形状をしており、彗星特有の「コマ(ガスや塵の雲)」や「尾」がほとんど観測されない、非常にミステリアスな天体でした。そのため、「異星人の探査機ではないか?」というSF的な憶測まで飛び交いました。

しかし、ボリソフ彗星は全く異なっていました。

  • 見た目は「普通の彗星」:ボリソフ彗星には、はっきりとしたコマと尾がありました。
  • 成分も「馴染み深い」:分光観測の結果、水や塵を含んでいることがわかりました。

ここから導き出される事実は、ある意味でオウムアムア以上に衝撃的です。 **「太陽系以外の星系でも、太陽系と同じような材料とプロセスで彗星が作られている」**ということが実証されたからです。

ボリソフ彗星の姿が「普通」であったことこそが、宇宙の普遍性を証明する最大の発見だったと言えるでしょう。


3. ハッブル宇宙望遠鏡が見た「真の姿」

NASAのハッブル宇宙望遠鏡や、地上の大型電波望遠鏡アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)による詳細な観測は、さらに興味深いデータを私たちに提供してくれました。

驚異的な一酸化炭素(CO)濃度

ボリソフ彗星の成分を分析した結果、太陽系の平均的な彗星に比べて、一酸化炭素(CO)の含有量が異常に多いことが判明しました。

これは何を意味するのでしょうか? 一酸化炭素の氷は非常に低い温度でなければ維持できません。つまり、ボリソフ彗星は、母なる恒星から遠く離れた、極寒の領域(太陽系で言えばカイパーベルトよりもさらに遠く)で形成された可能性が高いことを示唆しています。

赤色矮星の彼方から?

この成分構成は、銀河系で最もありふれた星である「赤色矮星(M型星)」の周りで形成される原始惑星系円盤のモデルとよく一致します。

ボリソフ彗星は、何らかの理由(巨大ガス惑星の重力による弾き出しなど)で故郷の星系を追放され、何億年、あるいは何十億年もの間、星間の闇を漂い続けてきた「孤独なタイムカプセル」なのです。


4. ボリソフ彗星が崩壊しなかった理由

太陽に最接近(近日点通過)した際、ボリソフ彗星は太陽からの熱を受け、激しくガスや塵を噴出しました。 2020年3月頃には、核の一部が分裂したような兆候も観測されましたが、彗星全体が完全に崩壊することはありませんでした。

これは、核のサイズがある程度大きかった(直径数百メートルから1キロメートル程度と推測されています)ためと考えられています。 オウムアムアのように通り過ぎるだけでなく、太陽の熱で「活動」してくれたおかげで、私たちはその内部から噴き出すガスの成分を分析し、遠い異星の科学データを手に入れることができたのです。


5. これからの恒星間天体探査

ボリソフ彗星はすでに太陽系を離れ、二度と戻ってくることはありません。現在は望遠鏡でも観測できない彼方へと飛び去っています。

しかし、この発見は始まりに過ぎません。 天文学者たちは、恒星間天体は決して珍しいものではなく、**「常に太陽系内に一つや二つは存在しているが、暗すぎて見つかっていないだけ」**だと予測しています。

待ち伏せミッション「Comet Interceptor」

現在、欧州宇宙機関(ESA)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、**「コメット・インターセプター(Comet Interceptor)」**というミッションを計画しています。

これは、ターゲットとなる彗星が見つかる前に探査機を打ち上げ、宇宙空間で「待ち伏せ」をするという画期的なプロジェクトです。もしタイミングよく次の恒星間天体が現れれば、人類は初めて「異星からの来訪者」に直接探査機を接近させ、その表面を撮影することができるかもしれません。


まとめ:宇宙は私たちが思うより「つながっている」

ボリソフ彗星の発見は、私たちの太陽系が孤立した閉鎖的な空間ではなく、銀河系全体と物質をやり取りするオープンな環境であることを教えてくれました。

  • 誰でも発見者になれる可能性: アマチュア天文学者が発見したという事実。
  • 宇宙の共通性: よその星系でも、私たちと同じような彗星が作られているという事実。
  • 未知への探求: 次の訪問者を待ち受ける新しいミッションの胎動。

夜空を見上げるとき、そこには見えないだけで、数多くの「旅人」たちが通り過ぎているのかもしれません。 ボリソフ彗星は去りましたが、それが残したデータと興奮は、これからの宇宙探査を大きく加速させる燃料となりました。

次に現れる恒星間天体は、どんな姿をしているのでしょうか? オウムアムアのような異形か、ボリソフのような馴染み深い姿か。 私たちの想像を超える出会いが、すぐそこまで来ているのかもしれません。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次