
インジェニュイティの後継機「スカイフォール」が挑む火星の浅層地下探査
NASAが火星探査において新たな歴史を刻む準備を進めています。
かつて火星の希薄な大気圏で72回もの飛行を成し遂げた小型ヘリコプター「インジェニュイティ」の大成功を受け、NASAのジェット推進研究所(JPL)は次世代の火星航空機ミッション「スカイフォール(SkyFall)」の開発を本格化させています。
スカイフォールは2028年後半の打ち上げが計画されており、人類初の宇宙用原子炉を搭載した探査機「スペース・リアクター1・フリーダム」に相乗りして火星へ向かう予定です。
このミッション最大の特徴は、3機の自律型ヘリコプターが連携して広大な火星地表を飛行探査する点にあります。
従来の火星ローバーは移動速度が遅く、探査範囲が数キロから数十キロに限られていましたが、スカイフォールのヘリコプター群は上空を高速かつ自在に飛び回ることで、桁違いに広範なエリアを短期間で詳細に調査することが可能です。
また、インジェニュイティのように地上ローバーを中継基地として利用する制約から脱却し、各機体が火星周回軌道の探査衛星へ直接データを送信できる独立した通信能力を備えています。
スカイフォールが課された最重要任務は、将来の有人火星探査を見据えた「水資源(氷)」の直接的なマッピングです。
火星周回衛星からのレーダー観測では、地下数十メートルという深い場所にある巨大な氷層を発見することはできても、地表からわずか数メートル以内の浅い層にある氷を正確に捉えることは困難でした。
しかし、将来の宇宙飛行士が火星で生命維持や燃料生成に活用するためには、手軽に掘削可能な地表近くの氷の存在が極めて重要になります。
スカイフォールは超低空を低速で飛行しながら500MHzから2500MHzの超広帯域地中探査レーダー(GPR)を照射し、地表下0.5メートルから5メートルの浅層に眠る氷の層を高分解能で可視化することを目指しています。
着陸時の衝撃を逃がす革新的な布製ビバルディアンテナと耐久テスト
火星の地下氷を探査する上で最大の技術的ハードルとなったのが、レーダーアンテナの小型化と耐久性の両立でした。
地下浅層を高精度で探査するための電波帯域をカバーするには、通常であれば長さ約48センチメートルのアンテナが必要とされます。
しかし、スカイフォールの機体サイズは全高約52センチメートルであり、着陸脚と地面とのクリアランスはわずか15センチメートル程度しかありません。
硬い金属製の長いアンテナを取り付けた場合、着陸時や岩石への接触時にアンテナが激しく破損してしまう致命的なリスクがありました。
この難題を解決するため、JPLの工学チームは「ビバルディ(Vivaldi)アンテナ」と呼ばれる広帯域特性を持つ平坦な形状に着目し、極めて柔軟な布製アンテナを開発しました。
このアンテナは、過去に火星探査ローバー「スピリット」や「オポチュニティ」の着陸エアバッグにも採用された超高強度繊維「ベクトラン(Vectran)」とポリエステル層でコーティングされています。
重量はわずか約142グラムと羽のように軽く、機体の側面にまるでマントのように垂れ下がる構造になっています。
着陸脚よりも長いアンテナは、機体が着陸すると地面や岩に沿ってしなやかに折れ曲がり、離陸すると板バネの力で元の形状へと瞬時に復元します。
JPLの環境試験施設において実施された過酷な耐久試験では、火星の激しい昼夜の温度変化や着陸衝撃を精密に再現したシミュレーションが行われました。
その結果、主要ミッションで想定される2倍に相当する200回以上の連続着陸シミュレーションを経ても、アンテナの形状保持力や送受信性能に一切の劣化が見られないことが実証されました。
布製アンテナという常識破りの設計思想が、火星探査の新たな可能性を切り拓いています。